こんにちは、中小企業診断士のときです。
今日は、モノに携わるビジネスをしているなら切っても切り離せない「保管コスト」について、掘り下げます。
どのように保管コストを削減できるのか、現役コンサルタントが分かりやすく説明します。
それでは、どうぞ!
保管コストと削減の必要性
保管コストとは
そもそも保管コストとは、なんのコストでしょうか。
保管コストは、カスタマーからの注文が来るまで、製品を倉庫に置いておくのにかかる費用のことです。
自社倉庫に保管していない場合は、倉庫会社から「保管料」や「施設利用料」として請求されることが多いです。
保管コストが重要な理由
保管コストは企業の財務に大きな影響を与えます。
まず、倉庫に保管されている製品は、貸借対照表(BS)で棚卸資産として計上されます。これが在庫回転率などの指標に影響し、資産の効率性を評価するために重要です。
また、保管料は損益計算書(PL)の販売費および一般管理費(販管費)に含まれ、営業利益やキャッシュフローにも影響します。
保管コストが軽視される理由
しかし、保管コストは軽視されがちです。その理由は以下の3つです:
- 部門間の調整不足
- 営業部、調達部、生産部がそれぞれの理由で在庫を多めに持ちたがりますが、保管コストは物流部が管理します。そのため、各部門は自分の行動が保管コストにどう影響するかをあまり意識していません。
- 保管単価の不明確さ
- 保管単価がどう決まっているのか、相場がどうなっているのかが分からないため、コスト削減の意識が低くなりがちです。
- 見えにくいコストとしての性質
- 保管コストは間接的なコストなので、直接の利益や売上に影響を与えるものと比べると、どうしても優先順位が低くなりがちです。
こういった理由で、保管コストの適切な管理が難しい場合が多いのです。ここからは、現役コンサルタントが保管コストの削減方法について説明します。
具体的な改善策を見つけて、効率的な在庫管理を目指しましょう!
具体的な削減方法
それでは具体的な削減方法についてみていきましょう。
これらは一般的なアプローチになるので、是非みなさんの企業に合わせてカスタマイズしてみてください。
在庫管理の最適化
最初は、在庫管理の最適化による保管コストの削減です。
そもそも、保管する必要があるかどうか見極めて、保管する物の量を減らす作戦になります。
これ、まさに「言うは易く行うは難し」でして。なぜなら、在庫量を決めているのはほとんどの企業で物流部門ではないからです。しかし、保管コストの削減は物流部門に白羽の矢が立つこと間違いなし。
そこでおすすめなアプローチとしては、
1.本当にその在庫量が必要になる根拠を各部署に確認する
ここでしどろもどろになるようであれば、その部署は在庫量のことなんて気にしていません。自部門に責任が来ないように多めに在庫している可能性が高いです。
2.商品ごとの出荷可能日数・出荷日数を可視化する
こちらは、商品ごとに在庫状態を可視化することで、定量的に在庫を抱えすぎていないか確認するアプローチになります。求めるのは以下2つの情報です。
出荷可能日数 = 在庫数 ÷ 1日当たりの平均出荷数
出荷日数 = 1か月の内、出荷した日の数
商品ごとに上記2つの情報を求めて、散布図を作ってみてください。
例えば、出荷可能日数が3日で、出荷日数が1日(1か月の内、1日だけ出荷することがある)の場合、実質的に3か月分の在庫を抱えていることになります。
3.安全在庫係数を見直す
全社として、安全在庫係数の決め方が担当者の独断と経験に依存していないか確認します。
一般的に安全在庫係数の算出は、以下の式によって可能です。
<安全在庫の計算式>
安全在庫=安全係数×使用量の標準偏差×√(発注リードタイム+発注間隔)
倉庫運用の効率化
つづいての施策は、倉庫内の保管業務に関する運用を見直すことです。
大きくアプローチとしては、以下2つが考えられます。
1.保管要件の見直し
保管効率を上げることで省スペースでの保管が実現可能です。しかし、保管要件が厳しいと保管効率を下げ、結果的に必要以上のスペースで保管せざるを得ない、または無駄に保管単価を上げることに繋がってしまいます。
保管要件で注意が必要な項目は、
- 温度設定
- 段積み可否
- 棚卸の頻度や要求
- 他の製品との近接可否
これらの要件が厳しいと保管効率が悪くなり、保管コストの単価や数量に影響を与えることになります。
本当に必要な項目・要求であれば問題ありませんが、これまでの経緯から何も疑いもせずに続けてるとすれば要注意です。
一度、関係部署に要件を確認しましょう。
そして本当に変えれないのか?どんな条件なら変えれるのか検討してみることをお勧めします。
2.保管効率の向上
保管効率の向上は、保管スペースに直結する重要なポイントです。
チェックポイントとしては、
- 重ねて置けているか?(段積みやネステナー等で高さを活かした保管が出来ているか?)
- 間口の中に空きスペースがないか?(見落としがちなのが、端数パレット等により、間口のなかで空いたスペースが多いケース)
- 通路幅や作業エリアを必要以上に広く確保していないか?(倉庫事業者としては、作業エリアを広く取りたいもの。本当にそのスペースが必要なのか?また、間接的に作業生産性への影響として、広くとっていることで動線が長くなっていることの影響も確認したい)
契約体系の見直し
最後は、保管を委託している業者との契約条件に関する見直しです。
こちらもアプローチをご紹介します。
1.適切な契約単価に向けた交渉
保管コストは、単価 x 数量で設定されていることが多いです。
この設定されている単価が高いと、どんなに保管する物量を減らしたところで保管コストは割高のままになります。
そこで、保管単価が適切か判断する必要があります。
しかし保管単価は、時期や場所、保管条件によって大きく変わります。以下はあくまで参考ですが。
都市部:8,000円 / 坪 地方:3,000円 / 坪 (冷蔵や冷凍の場合、左記料金 x 1.2~1.5倍)
契約単価が本当に適正か、割高な単価になってないか一度確認されることをお勧めします!
2.適切な契約体系に変更
契約単価の設定には、保管コストの契約体系によって大きく2つあります。
契約体系 | 固定制 月間の契約坪数に対する単価 | 変動制 単位数量(ケースやパレット)に対する単価 |
---|---|---|
概要 | 坪数に対して保管コストが発生 | 物量に対して保管コストが発生 (対象となる物量・期間で様々な契約有) |
契約例 | 3,000円 / 坪 | 500円 / パレット・10日 |
柔軟性 (波動への対応力) | 借りてる坪数以上は保管できない | 物量が増減しても数量分だけ対応 |
効率性 | 倉庫側に改善の意欲が沸きにくい | 効率を上げた分だけ倉庫側は得 |
コスト | 回転率が高いと割安に | 回転率が悪ければ割安に |
ポイントとしては、保管しているモノの回転率によってお得になる契約体系が変わります。
まず前提として、十分安い契約単価を締結していたとして、もしモノの回転率が非常に高い場合。
その場合は、固定制の方がコストが安くなる可能性が高いです。
なぜなら、変動制では数量に対して課金されてしまい、回転率が高い場合、その分数量が多くなってしまう為です。
例えば、10日間で10PLが倉庫に入荷し、1PL当たり1,000円の保管料が設定されていたとします。
その場合、保管料は10PL x \1,000 = \10,000になります。
しかし、10PLが実際は3日間在庫してないとすると、約3PL分の保管スペースしか使っていないにも関わらず、
10PL分の費用が請求されています。
概算ベースで、3~4PL分であれば、2坪で済むので\3,000/坪 x 2坪 = \6,000で済みます。
このように、複数の観点から保管コストについて網羅的に評価することで、適正な保管コストを見極めることが可能です。
成功事例とベストプラクティス
成功事例
- A社
A社は、端数パレットが多く段積みが困難であったため、保管スペースの効率的な利用に悩んでいました。特に、入庫されるパレットが均一でないことから、スペースの無駄が発生し、多くの保管スペースを必要としていました。この問題を解決するために、A社は保管効率を上げる方法を検討しました。
そこで、A社が採用した施策の一つが、中間棚をネステナーに導入することでした。ネステナーは、段積みが困難なパレットを効率的に保管するための専用棚です。これにより、端数パレットでも効果的に収納でき、スペースの有効活用が可能になりました。
具体的には、中間棚を導入することで、保管の間口数を増やし、各パレットをより効率的に配置できるようになりました。これにより、保管スペースの無駄を削減し、スペースの最大限の活用が実現しました。
結果として、A社は保管効率を大幅に向上させることに成功しました。これにより、保管スペースの節約だけでなく、運搬や取り出しの効率も改善され、全体的な物流コストの削減に寄与しました。中間棚の導入は、限られたスペースを有効に活用するための効果的な手段であり、A社の倉庫運営において重要な改善策となる良い事例です。
- B社
B社は製造業で、物量増加の波動に対応するため、変動制へ契約変更をし、業務を委託していました。しかし、B社の製品は在庫回転率が非常に高く、変動制で従量課金による契約体系だった為、割高な保管料を請求されていました。
この問題を解決するため、B社は需要予測の数値をベースに、毎年最大物量で必要なスペースを固定制で契約する体系に変更しました。これにより、保管スペースの利用効率が向上し、従来支払っていた保管コストを50%削減させることに成功しました。
最終的に、B社は事業成長に十分な保管スペースの確保と、適正な保管料の設定を同時に達成することができました。この事例は、在庫回転率の高い製品を扱う企業にとって、変動制から固定制への契約変更が有効なコスト削減策となることを示す良い事例と言えます。
ベストプラクティス
保管コストだけに留まった話ではないが、常に今の状態がベストかどうかは疑いのまなざしでチェックする必要があります。
これまでの話を踏まえて、私から皆さんにお勧めするベストプラクティスです。
- 事業の成長に合わせて、適切な契約体系になっているか定期的に見直す
- 本当に必要なモノだけ保管されているか、必要性を社内で確認する
- 過去の慣習を続けるのではなく、保管コスト・保管効率について、よりよい方法がないか委託者・倉庫事業者双方で議論する
これらをルーティン化して、会社全体で不要なコストがないか、どうしたらスリム・スマートな経営ができるか、アイディアを出し、議論し続けることが大切です。
このような継続的な改善活動は、保管コストの削減だけでなく、全体の業務効率化にも寄与し、会社の競争力を高める重要な要素となります。
まとめと学び
このように、一見複雑で難しい保管コストですが、1つ1つ適性を評価することで、きちんとコスト削減につなげることが可能です。
ということで、今回は保管コストについて、その削減方法を深掘り・説明しました。
それでは、次回の記事もお楽しみに!
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