はじめに
こんにちは、中小企業診断士のトキです。
先日、中小企業診断士協会が主催する実務補習を受講してきました。私が参加したのは、5日間の全行程を1週間でこなすコースです。
実務補習を受講する前は、何をどう進めるのかがほとんど分からず、準備もどうすればいいのか悩んでいました。いざ補習が始まると、短期間で多くの作業をこなさなければならず、非常にハードな1週間になりました。
今回の受講を通して、事前にしっかりとやり方を理解し、準備を整えることがどれほど重要かを痛感しました。
次回はもっとしっかり準備をして臨みたいと強く思っています。そのほうが、学びも効率も大幅に向上するはずです。
今回は、初めて実務補習を受ける方に向けて、補習の流れやポイントを分かりやすく解説していきます。
それでは、どうぞ!
結論
実務補習を受ける前、実務従事と迷いました。理由は、実務補習の受講費用が高く、コストパフォーマンスに不安があったからです。ただ、ネットの情報を調べると「1回は実務補習を受けたほうが良い」という意見が多く、最終的に実務補習を選びました。
補習を終えた結果、2つの結論に至りました。
- 学びは実務補習の方が大きい(可能性が高い)
- ただし、費用と作業負荷は高く、心身ともにかなりハード(班によりますが)
実務補習の実態
- 進め方やアウトプットのイメージが不明確な状態で進行
- 移動も含めて、7:00〜23:00の超高稼働状態に(平日は仕事もあるので疲労がたまる)
- チームメンバーの能力にバラつきがあり
覚悟しておくべきこと
- 高稼働につき、家庭への負担が大きい
- 効率的にタスクが進まないため、高負荷な日々が約1.5週間続く
- 最後には「早く終わってほしい」と思うくらい、心身ともに疲弊する
困ったこと
- どのように考えたらいいか、具体的な方向性が分からず困る
- 実現性のある施策が見つからない
実務補習に関する情報って、出回ってなくて謎が多いんですよね。
ゆえに、あまり事前対策がとれないという点がありました。
そこで、今回は私の体験をもとに、書ける範囲で実務補習の実態を解説したいと思います。
5日間の流れ
まず、実務補習の5日間コースの進行を簡単に説明します。
このコースの特徴として、受講者に任される部分が多く、進め方が曖昧です。
具体的なアジェンダや予定が事前に決まっていない点が、公的な実務補習の特徴と言えます。
この不透明な進行により、準備不足のまま進めると時間を無駄にしてしまう可能性が高いです。
さらに、アウトプットのイメージが掴めないことが大きな問題となります。ゴールが不明確なため、逆算してスケジュールを立てるのが難しいのです。ただし、進め方のイメージができていれば、アウトプットの詳細が見えなくても、どこまで進めるべきかは把握できます。
1日目 9:00 ~ 20:00 ヒアリング
午前
- 顔合わせ・挨拶
- ヒアリング事項の整理 (事前に整理していたものをたたき台にして修正)
- ヒアリングの進め方について作戦会議
午後
- クライアントの事務所に移動
- ヒアリング実施(3時間ほど)
- ヒアリング内容の整理
- 翌日のヒアリング事項の整理 発散してこの日は終了
2日目 9:00 ~ 20:00 SWOT分析と方向性
午前
- ヒアリングの準備
- ヒアリング実施(2時間ほど)
午後
- 会議室に移動
- ヒアリング内容の整理
- 提案の方向性を議論
- SWOT分析
- SWOT分析から提案の方向性を修正
- 3日目に向けたTODOを確認 絶望的に提案の糸口が掴めない
中5日
- 各担当パートの作りこみ(1回目)
- 外部環境分析
- (水曜あたり:進捗確認ため3時間ほど会議)
3日目 9:00 ~ 21:00 各パート毎の作りこみ
午前
- 各自作った成果物を共有
- 提案の方向性に疑問・再議論
午後
- 各パートの方向性修正
- ラフな提言作成
- 各自担当パートを作り込み この時点で本業含め6日フル稼働で疲労ピーク
4日目 9:00 ~ 21:00 全体整合 ⇒ 23:00 ~ 3:00 担当パートの作りこみ
午前
- 前日からの作成状況を共有
- 依然として提案の方向性が曖昧なパートを残すが、時間がないので無理くり作業を進める
- 結局、最後まで提案に向かってどのようにアプローチするか、
どのようにここまでの議論結果を修正していくか完全に迷子状態
午後
- 指導員から助言、修正
- 各自のパート作り込みは宿題 非効率・非生産的・長時間拘束でストレスピーク
5日目 9:00 ~ 18:00 最終報告
午前
- 前日の各パート作りこみ状況を確認
- 最終調整・全体整合
- 印刷
午後
- クライアントに報告(2時間ほど) 過去一帰って寝たいけど、最後の宴会は楽しい
学び
5日間の濃密な時間を過ごし、非常に多くの学びを得ました。
悩み、試行錯誤し、指導を受け、社長に説明するという、他では得がたい体験の連続でした。
ここでは、具体的に学んだ内容を説明します。
総合経営診断の進め方
総合経営診断の進め方を実体験できたことが、最も大きな学びでした。
普段、私は物流コンサルタントとして働いていますが、関わるプロジェクトは経営診断とは少し異なります。
普段はコスト削減や物流戦略の立案に取り組んでおり、今回の総合経営診断は、それとは全く違う体験でした。
総合経営診断では、1回のヒアリングと財務諸表、外部環境分析をもとに提言を行います。
これに対して、通常のコンサルタント業務では、3か月以上のスパンで何度もヒアリングを行います。そのため、1回のヒアリングだけで十分な情報が得られるのか、不安を感じました。
実際に行ったヒアリングでは、社長から多くの会社事情を聞きました。
そこから必要な情報を取捨選択し、提言につなげるプロセスは非常にダイナミックで刺激的でした。
大切なポイントは次の3点です。
– 会社の目指す方向性を客観的に判断する
– 財務的な裏付けを提言の核とする
– 戦略に沿った各分野ごとの提案内容を構築する
これらを踏まえて、経営診断を進めることが重要だと学びました。
とはいえ、やってみないと分からない部分も多いです。
コンサルタントという仕事はホワイトカラーに分類されますが、技術の習得過程は、熟練技術者の道のりに似ていると感じます。
「見て、やってみて、失敗して、学ぶ」――このようなプロセスを経て、経営診断の核心を理解することができました。
中小企業診断におけるドライバー
2つ目の学びは、経営診断における「思考のドライバー(推進力)」です。
経営診断を進めていると、常に「これでいいのか?」と悩む場面に直面します。
初めての経験なので、これは当然のことです。
悩みの根本は、思考の入り口が見つからないことです。
ロッククライミングを例にすると、つるつるの壁を前にして、どこに手をかけて登るか分からない状態です。
そんな時に役立つのが、次の3つの考え方です。
1. TOBEと比べる
現状と理想状態(TOBE)を比較し、問題点を見つけます。
人事面を例にすると、理想の状態は「リソースとしての人材が充足し、教育が進み、評価制度や採用制度が整っていること」などです。
このTOBEと比較して、診断先の現状を把握し、どこに問題があるかを明確にします。
2. 財務的根拠を見つける
提案の優先順位を決める際、財務的な裏付けを重視します。
中小企業は財務体力が乏しい傾向があるため、財務面のインパクトが大きい課題を優先して取り組むべきです。
3. 空・雨・傘で考える
「空:事実、雨:解釈、傘:対策」というフレームワークを活用します。
まず事実を明確にし、その事実から何を導けるかを考え、それに基づいて適切な対策を提案します。
アウトプットのレベル感
提出した資料がどれだけ価値のあるものだったかは、正直分かりません
(もしかすると、全く意味がなかったかもしれません)。
しかし、実務補習を通じて、社長に提出する成果物のレベル感を知ることができました。
実務補習では過去の成果物を見ることができないため、何をどれくらいのレベルで作成すれば良いのか、最初は全くイメージが湧きませんでした。
その中で、アウトプットのレベル感を把握できたことは大きな学びでした。
大変なこと
この章では、実務補習で特に大変だった点について解説します。
大変だった点は以下の3点です。
- 平日の本業に加え、朝から晩までの高稼働状態
- 分からないまま進めることでストレスがたまる
- メンバーの能力にバラつきがあり、プロジェクト管理が混乱する
1. 高稼働状態について
5日間の流れを見てもらえれば分かる通り、実務補習は非常にハードなスケジュールで進行します。
これに加え、平日の本業をこなしていると、肉体的にも精神的にも疲弊していきます。
また、「学び」の章でも触れたように、分からない状態でタスクを進めなければならない場面が多く、これで本当に合っているのか、間に合うのかという不安が常に付きまといます。
講師に質問することもできますが、何をどう聞けば正解に近づけるのかも分からない状況が多々あります。
ただ、経営診断を初めて経験する人にとっては、同じように混乱することがあると思います。
結果として、非常にストレスフルな1週間を過ごすことになります。また、高稼働によって家庭にも迷惑がかかり、メンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性もあります。
2. チームメンバーの能力のバラつき
次に苦労した点は、チーム内でメンバーの能力にバラつきがあったことです。
チームは6人ほどでしたが、実質的に戦力としてフルに稼働できるメンバーは限られていました。
通常であれば、能力に応じたタスクを振り分けることができますが、今回は時間やリソースに余裕がなく、全員が同じレベルの貢献をすることが求められました。
しかし、実際には簡単なタスクなどなく、メンバー間の能力差が大きな負担となりました。
最後には、全員で協力しながら進めることになりましたが、メンバーの能力差もまた、プロジェクト進行において大きな課題の1つでした。
対策
これまでの体験を踏まえて、2回目に実務補習を受けるならどのように進めるかについて解説します。
おすすめのアクションは次の通りです。
- 仮説を作る
- 外部環境を調べる
- 顧客体験
仮説を作る
まず、得られている情報をすべてインプットした上で、仮説を立てることが大切です。
この仮説が、今後の提言を作成する上でのたたき台となります。実務補習では時間が非常に限られており、8日間のコースでも同じです。そのため、限られた時間内で効率的に良い答えにたどり着くには、仮説検証のアプローチが効果的です。
仮説は、以下のカテゴリごとに作成するのが望ましいです。
- 経営
- 人事
- マーケティング
- 生産・物流
- システム
各カテゴリには、財務的な根拠を含めた仮説を立てることが推奨されます。
また、仮説は定量的・定性的な両面から進めることが基本です。5つの項目は定性的な内容になりがちなので、財務的な視点から定量面を補足すると、バランスの取れた仮説が立てられます。
ポイントは「仮説を作りっぱなしにしないこと」です。時間が進むにつれて、仮説は更新されるべきです。間違っていれば修正するか、削除すれば良いですし、議論の中で新しい仮説が出てきたら、追加してください。
また、仮説の作成は表形式がおすすめです。これは好みにもよりますが、Word形式よりも表形式の方が一覧性が高く、更新もしやすいためです。定性・定量の要素をマトリクス形式で表現することも容易になります。
外部環境の調査
次に、ビジネスに影響を与える可能性がある外部環境を調べます。
提言を作成する際、周囲の状況を考慮することが重要です。この調査にはある程度の時間が必要です。
例えば、PEST分析を行う場合は、以下の項目について調査します。
- 法規制
- 補助金
- 社会的トレンド
- 特許や技術動向
これらの範囲は非常に広いため、どこまでも深掘りできてしまいます。そのため、まとまった時間を確保して取り組むことが理想です。実務補習が始まる前に、この調査を6~7割終わらせておくと良いでしょう。業界全体に関わるメイントピックを網羅し、いくつかの個別トピックに詳しい状態が目標です。
実務補習中に外部環境の調査を行うのは、仮説の更新と並行して進めるため、体力的にも精神的にも負担が大きくなります。したがって、事前に取り組むことを強くおすすめします。
顧客体験
最後に、企業が提供している商品やサービスを実際に顧客として体験してみましょう。
顧客体験は、仮説の質を向上させる重要な要素です。
例えば、以下の点を確認できます。
- ホームページで提供されている情報と実態にズレがないか
- 品質面で顧客として満足できるか
- 改善のアイデアが浮かぶか
- 他社と比較して優れている点はどこか
最近、顧客体験の向上がビジネスにおいて注目されています。実際に体験して自分の感覚で判断し、その結果を仮説に反映させることで、多面的なインプットを取り入れた良い仮説を立てることが可能になります。
まとめ
本記事では、あまり情報が出回っていない実務補習に焦点を当てて解説しました。
結論として、コストと負担は大きいものの、それに見合った学びや横の繋がりが得られることが分かりました。1回は実務補習を受ける価値があるかという問いに対して、家庭的な問題がなければ「イエス」と答えます。
それでは、また次回の記事でお会いしましょう!
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